ビールを飲む理由

飲食店オーナーを目指すサラリーマンが、日々収集したフードビジネスやサービス業についての情報を書き込む備忘録

星野さん、そうっすよね、ビジネスホテルとシティホテル買いますよね。旅館なんてやってらんないっすよね。が、よく分かります

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画像:ニュースイッチ

要点:星野リゾートリート投資法人が平成28年4月期の決算を発表しました。営業収益は35億5900万円(リートは半年毎の発表です)と、予想を3100万円上回るまずまずの結果に。ちなみに5期は19億2600万円でした。急激に伸びているように見えますが、これはANAクラウンプラザ(シティホテル)取得によるもの。更に予想値を上回ったのは、買収したばかりの旭川グランドホテルの賃料が寄与したからです。星野リゾートは、旅館からビジネスホテル、シティホテルへと軸足を移しています。なぜか。楽して儲かるからです。旅館なんてやってらんねぇっす、という話。

 

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■そもそも、旅館でリートなんか、よく実現しましたね

 星野リゾートの何が凄いか。「ああ、京都にある旅館が外国人に人気なんでしょ?」「軽井沢にある旅館のコンセプトって、今まで日本になかったよね?」「ブレストンコートって、結婚式で人気なんでしょう?」どれも正解ですが、この会社の本質をついてはいません。この会社が常軌を逸している(失礼)のは、旅館という業態で、リートを組成したことです。旅館は客室が少ないので儲かりにくく、客室稼働率の季節変動が激しい上、施設の管理コストが高くつきます。なので、旅館でリートを組成するとは、お父さんに水をかけたらパンダになってしまうくらい、あり得ないことなのでした。

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画像:駿河屋

 リート。その仕組を知っている方は、次の■に飛んで下さい。

 リートとは不動産が生むキャッシュフロー証券化(流動化)したものです。ちなみに、株は会社(組織)が生むキャッシュフロー証券化したものです。なので、会社を不動産を置き換えれば、分かりやすいですね。

 「??」という方は、こう考えると良いです。

 都心のマンションの一室を1億円で買って、他人に貸そうと考えていたとします。こんな大金は銀行から借りられません。ですので、10人の仲間を集めて、1000万円ずつ出し合いました。マンションの借り手が見つかり、家賃を月30万円で契約できました。年間360万円です。10人で一人あたり年36万円の収入となります。このマンションの住人は10年間住み続けました。10人で一人総額360万円の収入となりました。

 さらに、住人が出て行った後、マンションは地価が高騰して1億5000万円で売れました。10人で割って、一人1500万円入ってきました。結果的に、一人あたり1000万円を不動産(マンション)に投資し、10年で1860万円入ってきたわけです。これを、数百億、数千億規模の不動産に拡大し、小口化して世界中の投資家から資金を集める。そして上場させるのがリートです。

キャッシュフローを生みづらい旅館に投資する人を集めるのが、どれだけ大変なことかは、容易に想像できます。

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■エリート経営者星野氏の戦略

 星野リゾートの社長、星野佳路氏は、ホテル経営の専門教育を受けてJALホテルズで経験を積んだ後、シティバンクで債権回収の手法を学びました。その後家業を継ぎ、旅館運営に乗り出しています。恐るべきは2005年にゴールドマン・サックスと手を組んで、全国の老舗旅館に資金を注入し、再生させるという離れ業を平気でやってみせたこと。これがリートへと繋がるのです。

 上場時はリゾナーレなどの高級旅館6物件からスタートしました。リート銘柄の中では最弱の資産規模。それにも関わらず、公募価格55万円に対して初値70万円という好調な滑り出しでした。星野リゾートブランディングによる話題性が先行した結果といえます。

 その流れはしばらく続くのですが、市場から資金を調達しまくってビジネスホテル・シティホテルを買い漁るようになりました。星野氏がセミナーに登壇し、しきりにホテルビジネスのことを話していたのはこのころです。

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■シティホテルの圧倒的な安定感

 星野リゾートは2015年7月に福岡、金沢、富山、広島のシティホテル「ANAクラウンプラザ」を約400億円で買収しました。ホテルビジネスの肝となる、客室稼働率・客室平均単価を見ると、どうして旅館からホテルへ鞍替えしたのかが良くわかります。

▼星のや軽井沢 稼働状況 ※総客室数77

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▼リゾナー八ヶ岳 稼働状況 ※総客室数172

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ANAクラウンプラザ 稼働状況 ※総客室数1229

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 旅館とホテルを比較してみると気づくのは、客室稼働率の圧倒的な安定感です。ホテルはほぼ80%で横ばいですが、旅館は50%~90%とバラつきがあります。観光シーズンがあるから、当たり前といえば当たり前。

 これだけ稼働に違いが出ると、スタッフや食材、アメニティの在庫に至るまで、管理に大変な労力がかかります。客室数が少ないから何とか回せますが、1000室規模になれば、たちまち破綻するでしょう。つまり、旅館は成長性が感じられないのです。

 楽して稼ごう、いや、投資家のために頑張って利益を出そう、そう考えると当然ホテルビジネスに行き着くわけですね。

 これは勘ですが、近々旅館を売却する日がくるかもしれません。運営だけを星野リゾートが請け負う形です。すでにブランド構築は終わっているので、旅館としてのハコは十分役割を果たしたわけです。売却した資金でシティホテルを次々と買収する日も近いかもしれません。