ビールを飲む理由

飲食店オーナーを目指すサラリーマンが、日々収集したフードビジネスやサービス業についての情報を書き込む備忘録

日和産業(2055)にみる国内畜産農家減少と業界再編の動き

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画像:生協コープかごしま

要点:西日本地盤の飼料メーカー日和産業のIRに「債権の取立不能」のお知らせが続々と舞い込むようになりました。いわゆる不良債権です。10月3日に鹿児島県の養鶏場、5月5日に長崎県の養豚場、養鶏場の売掛金不良債権化しています。こちら3件で8億9500万円が不渡りになった計算。貸倒引当金(不渡りを見越して予め帳簿にのせておくお金)を設定しているため、業績に影響は与えないとのこと。いや、そうじゃなくて。バッタバッタと倒れる畜産農家を救う、飼料から流通までの抜本的なビジネス改革期が迫っているのではないでしょうか。一世を風靡した6次産業化とやらの期待感も消えかかっていますし。しかも、ほら、奴らがくるよ。黒船に乗って関税撤廃を求める黒き衣を纏いしTPPが、という話です。

 

■肉用牛の飼養戸数は昨年比5.4%減少の5万4400戸

 農林水産統計によると、平成27年の肉用牛の飼養戸数は昨年に比べて3100戸減の5万4400戸。4年前に比べて、1万5200戸の減少となっています。豚、鶏ともに年間3~5%の割合で減少を続けています。

 日和産業は10月3日に鹿児島県の釘田養鶏場の売掛債権4億6200万円の取立不能、または遅延の発表をしました。今年に入ってこれで3度め。不渡りになった合計金額は8億5900万円にのぼります。

 釘田養鶏場(上部写真)は生協コープかごしまとの取引があり、食へのこだわりや安全性に関するインタビューに答えています。経営は娘婿さんが引継ぎ、娘さんは直売所・ケーキショップを運営していた様子。国内からこうした畜産農家が消えてしまうのは残念ですが、個人経営で生き残るのは難しいです。

 理由は3つ。

①飼料価格の上昇

②6次産業化という甘い罠

③関税撤廃の世界的な波

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■飼料価格は5年で21%増加

 飼料価格の上昇が止まりません。平成22年の成鶏用飼料価格は1トン6万円台で推移していましたが、27年には8万5000円台にまで高騰しています(約21%UP)。

 理由は大きく2つあります。一つは為替の影響。2014年の急激な円安により、原料となる穀物の仕入れ価格が上昇しました。最近の円高で若干価格の戻りが期待できるものの、すでに大量の仕入れをしてしまったことを考えると、急激に下がるとは思えません。

 もう一つは新興国穀物需要が旺盛だということ。中国は2009年にトウモロコシの受給が反転し、輸出から輸入に転じています。インド、ロシアの需要も拡大傾向にあります。

 日本政策金融公庫によると、畜産経営において飼料費は、なんと売上の40~70%を占めています!人件費、光熱費を入れたら何も残らないどころか赤字状態。しかも管理がしづらい生き物の商売で安全に対する配慮が必要なことから、生産効率を上げるのが極めて難しい分野なのです。補助金頼みになるのも、ある意味仕方がないのかもしれません……。

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画像:宮城県6次産業化サポートセンター

MBAを持つくらいのレベルじゃないと、6次産業化はムリだと思います

 2000年に入ってから、6次産業化という言葉をしきりに耳にするようになりました。生産(1次産業)、加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)までを一貫してやってしまおうという経営形態です。酪農家が直売所でソフトクリームとかを販売するアレです。

 6次産業化は農林水産省が農家に対して推進している上、コンサルティング会社が出てきたりして個人経営者が手を出した時期がありました。

 生産者が大掛かりな6次産業化に手を出したとしても、99%失敗すると断言できます。なぜか。普通の生産者は経営ノウハウを持っていないからです。

 6次産業は難易度の高い「B to C」ビジネスの経営者になることを意味しています。人材、在庫、品質、販管費などのマネジメント、マーケティングは必須。家族経営の生産者が一朝一夕でできるものではありません。初期投資も同じ。補助金で資金を得られたとしても、投資回収のロードマップは引けません。回収の見込みがないまま、怪しいコンサルタントの言いなりになって「6次産業化じゃい!」と参入してしまう人が多かったのではないでしょうか(コンサルタントは投資資金の10%を懐に入れてドロン、というわけです)。

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画像:ウィキペディア

TPPにより輸入牛肉の関税は38.5%→9%に

 さあ、やってきましたTPP。政府の試算では、TPPが発効することでGDPは2.6%増加、2014年度の水準で14兆円の拡大効果があるとしています。雇用も80万人増が見込まれ、輸出大国日本の面目躍如といったところ。

 カウンターパンチを喰らうのが日本の農業。牛肉の関税が現行の38.5%から9%に無制限で輸入されることになります。国内の牛肉生産額は2000億~3000億円減るという分析も。畜産業の赤字の80%は、国の補助金で賄う仕組みになっています。畜産業界全体が骨抜きになってしまいそうな構図ですね。

■商社の花形は資源から食料部門にシフトするかも

 そんな不安とは裏腹に、食料業界は巨額のカネが動く劇的な変化を起こしています。

 伊藤忠商事三菱商事三井物産を抑えて、2016年3月期の決算で業界No.1に輝きました。背景には資源価格が暴落し、過剰投資していた三菱や三井が大打撃を受けたのです。食料を柱とした非資源ビジネスで、着実にヒタヒタと走っていたのが伊藤忠でした。

 原油を中心とした資源価格は、しばらく停滞期が続くはずです。中国景気が勢いを失った上、過剰生産した原材料が(腐るほど)余っているからです。しかも、アメリカが開発を進めたシェールオイルは、原油価格が上がるタイミングを今か今かと狙っています。

 商社の花形は資源から食料へと移るかもしれません。これまで、資源部門に配属された社員はその部署で一生働くのが普通でした。そしてその人は羨望の的だったわけです。ところが、今は資源から食料、繊維などへの異動が普通になりつつあるようです。

 三菱商事がローソンを1440億円で買収した件。大手商社が非資源ビジネスへと舵を切った象徴的な出来事でした。これこそ第6次産業化です。

 2015年2月には丸紅系とJA系肥料会社が合併、7月には伊藤忠飼料と中部飼料が提携しました。畜産や飼料、肥料業界は寡占化が進行しています。

 大手商社による超巨大な6次産業化が、日本の畜産を支える時代がくるのかもしれません。

 

動物の飼料

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