ビールを飲む理由

飲食店オーナーを目指すサラリーマンが、日々収集したフードビジネスやサービス業についての情報を書き込む備忘録

新興ブライダル企業エスクリ(2196)も、”泥船”不可避か

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要点:2003年創立、2007年にマザーズ上場、2012年に東証一部に指定替えと順調に成長してきたブライダル企業エスクリ。2年ほど前までは都市部へのビルイン型婚礼施設の出店で急成長していたものの、今年2月に入って通期の利益を予想の19.2億円から6.7億円に65%下方修正していっきにトーンダウン。積極的なM&Aによる拡大戦略が災いしているようです。赤字体質から抜け切れないワタベウエディング、株価が3年間で1/5になってしまったテイクアンドギヴ・ニーズ、今期経常を32%減益に下方修正したツカダ・グローバルホールディングス。飛ぶ鳥落とす勢いだったエスクリも老舗ブライダル企業と同じく泥船化してしまいましたとさ、という話。

 

■第1四半期売上高は21.6%増も2億9400万円の損失で赤字幅は拡大

 エスクリの平成28年3月期第1四半期売上高は前期比21.6%増の64億9400万円。営業損益は2億4000万円(前期は2億100万円)、経常損益は2億9400万円(前期は2億1700万円)の赤字でした。

 ちなみに、27年3月期の通期決算はこんな感じ。

▼売上高 262億2600万円(前期比12.9%増)

▼営業利益 8億3900万円(65.3%減)

▼経常利益 7億8700万円(66.5%減)

 図体がデカくなって(売上が増える)も、海に沈む(赤字が拡大する)姿は、泥船そのものです。しかしこれは、新興ブライダル企業だったエスクリが、成長戦略としてシェア拡大に舵を切った当然の結末なのかもしれません。

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 この会社の、もともとの成長戦略は以下のようなものでした。

【戦略】:新幹線が止まるターミナル駅の徒歩圏内高層ビルに結婚式場を出店

メリット①:ビルイン型施設のため、邸宅型の結婚式場よりも出店費用を抑えられる

※邸宅型が6~8億円前後なのに対し、ビルイン型は半分の3億円程度

メリット②:シティホテルと対等の眺望を持ちながら邸宅型と同じプライベート感を演出でき、顧客を呼び込みやすい

メリット③:ターミナル駅に出店することで遠方のゲストを呼びやすく、結婚式の単価が上げられる

※郊外の邸宅型の場合、カップルは高齢者を呼ぶことに躊躇するケースがあります

 このビジネスモデルが特に優れている点は①です。ビルインは躯体費用が掛からないので、出店コストが半分ほどに抑えられます。ウエディング業界の投資回収期間は5年が常識。しかしながら、エスクリは3年で回収することができたのです。

■元ゼクシィ営業マンが打ち出した完璧な集客戦略

 エスクリの創業者岩本博氏はリクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の営業マン。それも雑誌の立ち上げ当初から関わっていました。岩本社長は、どんな広告を出稿すれば顧客を集められるかを知り尽くしていたのです。

 こんな感じ。

▼2つバンケット(宴会場)を持つ同じ結婚式場に対して、別々の名前をつける

※例えば、池袋にある「アルマリアン東京」と「アヴェニールクラス東京」は同じビル内にありますが、全く別の結婚式場のように見えます。それぞれのテイストとブランドを明確に分けることで、広告訴求をするターゲット層を絞り込めるのですね。

▼窓を広く見せ、ランドマークをこっそり入れてみる

※高層階の結婚式場に期待するものといえば眺望です。エスクリの広告は、ほとんどがパース(実際の写真ではなく、イメージ図)。こうすることで、窓が実際よりも広いように見せることができます。実際は見えない東京タワーなどのランドマークが、窓の外にちょっぴり入っていたりもします。

▼ホワイトを基調色に

※結婚式の定番カラー・ホワイト。ブライダル企業各社は、白い結婚式場というイメージから抜け出そうと試行錯誤しました。茶色、ピンク、緑などなど。一発当たれば大爆発する結婚式業界。金脈を探そうと躍起になったものの、どれも当たらず失敗の繰り返し。エスクリはそんなチャレンジングなことはせず、淡々とホワイトベースバンケットやチャペルで攻めました。

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■当初の戦略がブレてM&Aによる拡大戦略を打ち出す

 凄まじい勢いで地方に出店を始めたのが2015年ごろから。4月に福井を中心にゲストハウス運営をする「みや美」を買収。徳島の「清水祥雲閣」、栃木・茨城の「ラ・ポルト」などを次々と事業譲受しています。沖縄にも出店。リゾートウエディングにも参入しました。

 さらに、今年に入って「みんなのウェディング」の結婚式プロデュース事業、「ブライディール」も事業譲受しています。

 主要都市、地方、リゾート、オリジナルウエディングと、幅広い分野に進出したわけですが、結果は業績に出ている通り。

 経営・組織的には、人的リソースが不足し、急激に成長したことで全体の統制がとれなくなりました。岩本氏の脇を固める相当優秀な人材がいない限り、これだけの領域をまとめ上げるのは難しいでしょう。

 最近、フジテレビ系列のウエディング企業「ストーリア」も買収しています。この会社、巨大企業フジ系列ということもあり、ザル経営で業界では結構有名でした。六本木にある結婚式場「パラッツォドゥカーレ」。これはもともと別の企業が運営していました。ストーリアは、とても回収できないような家賃で契約を横取りしたと噂されています(月数百万円の家賃を1千万円超えでオファーしたとか)。

 さて、シェア拡大に乗り出したエスクリ。再び浮上するのか、それとも……。