ビールを飲む理由

飲食店オーナーを目指すサラリーマンが、日々収集したフードビジネスやサービス業についての情報を書き込む備忘録

ベインキャピタルが仕掛けた「大江戸温泉リート投資法人」はやや香ばしい匂いがする

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要点:全国に31の温泉旅館を経営する大江戸温泉ホールディングスが、今年8月に温泉特化型リートを上場させます。仕掛けたのは米投資ファンド大手、ベインキャピタル。リート市場に上場して調達する資金はおよそ200億円です。ベインキャピタルは2015年3月に非上場の大江戸温泉の全株式をおよそ500億円で買収していました。企業価値(業績)を上げて上場させるのかと思いきや、リートを組成するというまさかの変化球。業績を急回復させる目処が立たず、不動産を転がす作戦なのですね。でも、大江戸温泉というウワモノ(運営会社)に、どれほど不動産価値向上力があるのでしょうか、という話。

 

■大江戸温泉はホテルニュー岡部の物件を買収しています

 大江戸温泉ホールディングスは全国に31の温泉つき観光ホテルなどを所有しています。

 「ホテルニュー塩原」も所有するホテルの一つ。この名前を聞いて、ピンとくる方も多いはず。もともとはホテルニュー岡部の持ちもので、バブル当時はテレビCMをバンバン流していました。2010年からは大江戸温泉が3ホテルを引き継いで運営しています。

 ちなみに、大江戸温泉が現在所有・運営しているのが下の画像。うーん、温泉地ということもあり、京都や北海道、沖縄、福岡など国内外の観光客に人気のエリアが欠けています。しかも今は大企業が社員旅行で大々的に温泉地の観光ホテルを使うケースも減ってきました。収益的にどうなのでしょうか。

 観光ホテルの客室稼働率は50%前後(シティ、ビジネスは70~80%)。単価は1万円。良くいえば、潜在能力を秘めた物件です。悪くいえば、箸にも棒にもかからないホテルです。

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ベインキャピタルは大江戸温泉を上場させることに失敗したか

 旅館でリートを組成した星野リゾート(詳細は過去記事で)と、観光ホテルの大江戸温泉。旅館・観光ホテルという収益性の高くない物件を抱えてのリートという点では共通しています。星野が上場した際は素直に”凄い”と思いました。ところが大江戸温泉はどうも、きな臭い感じがしています。2社の違いは何か。それはファンドの傘下に入っているかどうかです。2015年にベインキャピタルは大江戸温泉の全株式を500億円で取得しています。

 ベインキャピタルすかいらーくドミノ・ピザに出資し、立て直しを図ったことで有名。最近では雪国まいたけを買収したことで話題になりました。

 ベインキャピタルLBOレバレッジド・バイアウト)の雄。買収した企業に多額の借り入れをさせ、設備投資・人員削減をして業績を(一時的に)回復させた後、上場させて売却益を得る手法です(その背景を知らないで株を買った一部のお花畑投資家は、企業が背負わされた借金の肩代わりをしているようなものなのですが、それはまた別の話)。

 大江戸温泉も同じ道を歩むのかと思いきや、リートという思いがけない方向へと進みました。これは予想ですが、温泉施設運営としての企業価値がどうやっても上がらず、やむなく不動産運用で価値を上げることにしたのではないでしょうか。

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■ラクに資金調達ができ、物件の取得・売却スピードが上がるリートの魅力

 さて、ここで星野リゾートのビジネスモデルを振り返りましょう。

 星野リゾートという旅館運営会社と、星野リゾートリート投資法人という大家さんの2つの会社が存在しています。星野リゾートリート投資法人は、全国に点在する立地は良くても不採算の旅館を探して安く買います。星野リゾートはその物件にブランド力を付与してお客さんを集め、客室稼働率を2倍、客室単価を3倍に引き上げることに成功しました。物件の資産価値が向上し、大家さんである星野リゾートリート投資法人は万々歳です。

 最近になって旅館の成長性に限界を感じた星野リゾートリート投資法人は、市場から資金を集めて元々採算性の良い全国のビジネスホテルやシティホテルを買うようになりました。運営は星野リゾートが行うのではなく、既存の会社が引継ぎます。こうすることで、ポートフォリオが強固なものとなりました。

 次に大江戸温泉(ベインキャピタル)に置き換えてみましょう。

 大江戸温泉リートが全国の業績が悪化した観光ホテルを見つけたと仮定します。大江戸温泉ブランドを冠することで、客室稼働率と客室単価が劇的に向上しました。なんてことが想像できるでしょうか?だって、ホテルニュー塩原は、かつてと同じ単価1万円ほどで売っていますし。

 今回の案件は、星野モデルとは決定的に異なると考えられます。となると、大江戸温泉をエサに市場から資金を調達し、可能な限り採算性の高い物件を取得することがベインキャピタルの目的と考えるべきです。あるいは、不動産の流動化ビジネススキームの確立を狙ったものかもしれません。いずれにしろ、ベインキャピタルは大江戸温泉の成長性に期待しているとは思えないのです(もし期待しているなら、星野のようなブランド構築を進めるため、リート上場前にメディアへの露出を爆発的に増やしているはず)。

 温泉施設をポートフォリオ全体の80%を占めるという「大江戸温泉リート投資法人」。上場時期は8月31日、初値予想は10万円。将来期待できるシニア層の旺盛な温泉需要と、外国人観光客の温泉ブームにより成長性が期待できるとの触れ込みですが、さて……。

 

[完全版]投資ファンドのすべて―儲けの仕組みと悪用防止策

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