ビールを飲む理由

飲食店オーナーを目指すサラリーマンが、日々収集したフードビジネスやサービス業についての情報を書き込む備忘録

ぐるなび(2440)が次の成長戦略に向けて酒蔵の囲い込みを進めている件

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要点:ぐるなび日本酒造組合中央会と連携し、日本全国の「日本酒・焼酎データベース」構築へと動き始めました。飲食店ポータルサイト事業の成長は頭打ち。新たな事業戦略として、生産者などの川上を抑える方向へと動いているようです。悪い言い方をすれば、飲食店から吸い上げ続けた甘い汁が尽き、次のターゲットとして酒蔵へと食指を伸ばした恰好。ここのところ株価は上昇傾向で、8月初旬に上場来高値を記録したところを見ると、投資家もその戦略に期待している様子。巨大企業も投資家の皆さんも、弱い者からカネを搾り取ってほくそ笑むのですね。でも、それが資本主義社会です当然です、という話。

 

■2021年3月期に全社売上高550億円の目標を掲げたぐるなび

 8月24日ぐるなび日本酒造組合中央会を通し、全国の酒蔵の情報を集めると発表しました。集めたデータをもとに、飲食店のドリンク情報の充実を図るというもの。早い話が、居酒屋で飲めるお酒がどこの酒蔵で、どんな風に作られているのかわかる、ということです。ユーザーにとってはうれしい話ですね。

 しかしながら、これはどうやら表向きの発表の様子。ぐるなびは次の成長戦略として、生産者や食品メーカーの販促支援を行う計画を立てていました。集めた酒の情報を、飲食店向けのB to BプラットフォームかECサイトに放り込んで、広告費を吸い上げる布石なのでしょう。

 ぐるなびの2016年3月期売上高は259億9000万円。それを2021年までに550億円まで引き上げる計画を発表しています。

▼飲食店ポータルサイト以外の、第2第3事業を立ち上げる中長期戦略

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■飲食店はIT用語の煙に巻かれて広告費を巻き上げられています

 穿った見方をすれば、ぐるなびは酒蔵からカネをむしり取るという構図。事実、グルメポータルサイトの登場により、飲食店でも同様のことが起こりました。

 ITのことなど何も知らない全国の飲食店では、よくわからないカタカナ用語で丸め込まれ、結構な販促費を毎月搾り取られているケースがあったります。こんな感じ。

ぐるなびの美人営業:「オーナーさーん。Googleアルゴリズムがユーザーファーストなディレクションにシフトしちゃったからー、ぐるなびもそれに合わせてキーポンムービング?みたいな感じなの。だから、もっとコンテンツにマネーをベットしないと、ユーザーがシュリンクしちゃう?みたいな」

飲食店オーナー:「うーん、よくわからないなー(いいから抱かせてくれよ)」

ぐるなびの美人営業:「だからね、ギブミーマネーで、商売繁盛?みたいな」

飲食店オーナー:「わかった、わかった。わかったから、今晩飲みに行こう?ね?」

ぐるなびの美人営業:「特集ページにー、掲載してくれたら考えてもいいかもー。かもかも」

飲食店オーナー:「わかった、わかった」

ぐるなびの美人営業:「では、ここにサインを(キリッ)」

※イメージです。

 全国の酒蔵も飲食店と同じくITリテラシーは低いものと考えられます。

 飲食店の場合、広告費をかけて集客できたことが麻薬のように中毒になり、やがて客数が落ちると過度に広告に資金を投じて倒産、というケースが結構あります。広告メディアの食い物にされた格好ですね。全国の酒蔵が同じ轍を踏まないと良いのですが……。

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■酒蔵の数は2009年の1700から1500前後にまで減少しています

 とはいえ、酒蔵の廃業が止まらないのも事実。かつて4000以上あった酒蔵も、2009年には1700、今では1500前後にまで減りました。販売チャンネルがないのが一番の原因と考えられます。

 ぐるなびが、酒蔵にWebによる販路拡大のチャンスを与えたのだとしたら、社会的貢献度は大きいです。

 消費者の理想の形としては、全国の珍しいお酒が近所の飲食店で楽しめ、通販で手軽に入手できるということでしょう。こだわりの米と製法でおいしいお酒を造る酒蔵は全国に数多く存在しています。ただ、知られているのはごくわずかです。

 危惧すべきは、ポータルメディアが業界の構造を大きく変えてしまうことですね。潤沢な販促費がかけられる巨大酒造メーカーが生き残って、倒産した酒蔵を買い漁り、名ばかりの酒造りを続ける。味は流行に合わせて平板に。日本酒ファンは増えても、品質は落ちるばかり。

 そうならないことを祈ります。

 さて、日本のお酒の行く末はいかに。

 

酒蔵名鑑(2014~15年版)

酒蔵名鑑(2014~15年版)

 

 

「飲食店.COM」のシンクロ・フード新規上場はVCナシの優良案件です

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要点:飲食店経営者と、外食関連業者のマッチングビジネスプラットフォーム「飲食店.COM」を運営するシンクロ・フードが9月29日にマザーズ市場に新規上場します。公募株数40万株で、想定発行価格は1960円。およそ15.8億円の資金調達になります。この会社、VC(ベンチャーキャピタル)の資金が入っておらず、業績も右肩上がりで盤石経営。代表の藤代真一氏は世界的コンサルティング企業アクセンチュア出身。目立った悪材料が見当たりません。上場規模としては中型なので、初値で”バコッ”と上がることはなさそうですが、中長期で持つには良い会社だと思います、という話。

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画像:シンクロ・フード

 

■28年3月期の売上高は8億4900万円

 シンクロ・フードは飲食店向けのITプラットフォームを提供しています。大きく3つです。

①「飲食店.COM」:飲食店オーナーになろうと考えた人は、一度は目にするメディア。飲食店にまつわる物件情報満載のサイトです。関連メディアとして、居抜き物件の売却先を探す「居抜き情報.COM」、内装デザイン業者と飲食店を繋ぐ「店舗デザイン.COM」があります。そのほかにも、食材仕入れ先を探す「飲食店.COM 食材仕入れ先探し」というサービスも。B to Bビジネスプラットフォームですね。

②「求人@飲食店.COM」:正社員・アルバイトの求人情報メディアです。

③「Foodist Media」:飲食業界人向けビジネス情報です。いわゆる業界紙ですね。

 特徴は飲食という分野に錨を下していること。当初は事業を安定させるために、アパレルや理美容の分野に進出することも検討していたとか。しかし、2010年に飲食業界にターゲットを絞りました。その経営判断が奏功しているようです。

 業績はこんな感じ。

▼平成24年3月期

売上高:3億3600万円 経常利益:3900万円

▼平成25年3月期

売上高:4億9600万円 経常利益:7800万円

▼平成26年3月期

売上高:5億5300万円 経常利益:1億2700万円

▼平成27年3月期

売上高:6億4900万円 経常利益:1億8700万円

▼平成28年3月期

売上高:8億4900万円 経常利益:3億2300万円

▽平成28年6月期(直近四半期)

売上高:2億4900万円 経常利益:1億900万円

 きわめて順調に成長しているイメージですね。地に足の着いた右肩上がりのカーブを描いています。ベンチャーキャピタルの資金が入っておらず、じっくりと実力をつけてきた、ある意味”泥臭さ”がうかがえます。

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■9月の上場案件12のうち、もっとも期待できる会社か

 9月はIPOラッシュ。12社が上場します(飲食関連だと、串カツ田中もその一つ)。その中でも、シンクロ・フードがビジネスモデル、成長性、経営スタイルにおいて頭一つ抜けていると考えています。

 上場日は9月29日、公募株数40万株、想定価格は1960円です。マザーズに上場するIT関連企業は人気が出やすい傾向があります。ただし、小型であればあるほど公募価格を大きく上回る傾向があるのも事実。シンクロ・フードは15.8億円と中規模案件なので、荷もたれ感(勢いに欠けた展開)は出るものと予想されます。

 初値に期待してハイリスクな賭けに出るよりは、中長期の成長性に期待して買った方が良さそうな銘柄ですね。

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■おっ、社長が腕組をしていない!

 上場ゴールが叫ばれる昨今、「腕組みの法則」なるものがあると噂されています。上場後にクソ決算やコンプライアンス違反の発表をする企業の社長の写真は、おしなべて腕を組んでいるというもの。シンクロ・フード代表の藤代真一さんはどうやら大丈夫みたいですね。

 藤代社長は1973年生まれ。大学院卒業後はアクセンチュアコンサルティングでIT部門のコンサルタントとして活躍。3年半で会社を辞め、29歳でシンクロ・フードを起業しています。実家が青果の問屋を営んでいたことで、Webと食を繋ぐ事業コンセプトを立ち上げています。

 どうやら人物的には温厚な人柄のよう。写真にもそんな雰囲気がにじみ出ています。日本が生んだ偉大な経営者の一人、稲森和夫さんを尊敬しているとのこと。組織の理念と社長のパーソナリティが結びついていて、危うい感じが一切しないのがいいです。

 上場による資金調達で、どんな成長カーブを描くのか。今後に期待できる企業の一つです。

 

最新版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!

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新興ブライダル企業エスクリ(2196)も、”泥船”不可避か

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要点:2003年創立、2007年にマザーズ上場、2012年に東証一部に指定替えと順調に成長してきたブライダル企業エスクリ。2年ほど前までは都市部へのビルイン型婚礼施設の出店で急成長していたものの、今年2月に入って通期の利益を予想の19.2億円から6.7億円に65%下方修正していっきにトーンダウン。積極的なM&Aによる拡大戦略が災いしているようです。赤字体質から抜け切れないワタベウエディング、株価が3年間で1/5になってしまったテイクアンドギヴ・ニーズ、今期経常を32%減益に下方修正したツカダ・グローバルホールディングス。飛ぶ鳥落とす勢いだったエスクリも老舗ブライダル企業と同じく泥船化してしまいましたとさ、という話。

 

■第1四半期売上高は21.6%増も2億9400万円の損失で赤字幅は拡大

 エスクリの平成28年3月期第1四半期売上高は前期比21.6%増の64億9400万円。営業損益は2億4000万円(前期は2億100万円)、経常損益は2億9400万円(前期は2億1700万円)の赤字でした。

 ちなみに、27年3月期の通期決算はこんな感じ。

▼売上高 262億2600万円(前期比12.9%増)

▼営業利益 8億3900万円(65.3%減)

▼経常利益 7億8700万円(66.5%減)

 図体がデカくなって(売上が増える)も、海に沈む(赤字が拡大する)姿は、泥船そのものです。しかしこれは、新興ブライダル企業だったエスクリが、成長戦略としてシェア拡大に舵を切った当然の結末なのかもしれません。

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 この会社の、もともとの成長戦略は以下のようなものでした。

【戦略】:新幹線が止まるターミナル駅の徒歩圏内高層ビルに結婚式場を出店

メリット①:ビルイン型施設のため、邸宅型の結婚式場よりも出店費用を抑えられる

※邸宅型が6~8億円前後なのに対し、ビルイン型は半分の3億円程度

メリット②:シティホテルと対等の眺望を持ちながら邸宅型と同じプライベート感を演出でき、顧客を呼び込みやすい

メリット③:ターミナル駅に出店することで遠方のゲストを呼びやすく、結婚式の単価が上げられる

※郊外の邸宅型の場合、カップルは高齢者を呼ぶことに躊躇するケースがあります

 このビジネスモデルが特に優れている点は①です。ビルインは躯体費用が掛からないので、出店コストが半分ほどに抑えられます。ウエディング業界の投資回収期間は5年が常識。しかしながら、エスクリは3年で回収することができたのです。

■元ゼクシィ営業マンが打ち出した完璧な集客戦略

 エスクリの創業者岩本博氏はリクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の営業マン。それも雑誌の立ち上げ当初から関わっていました。岩本社長は、どんな広告を出稿すれば顧客を集められるかを知り尽くしていたのです。

 こんな感じ。

▼2つバンケット(宴会場)を持つ同じ結婚式場に対して、別々の名前をつける

※例えば、池袋にある「アルマリアン東京」と「アヴェニールクラス東京」は同じビル内にありますが、全く別の結婚式場のように見えます。それぞれのテイストとブランドを明確に分けることで、広告訴求をするターゲット層を絞り込めるのですね。

▼窓を広く見せ、ランドマークをこっそり入れてみる

※高層階の結婚式場に期待するものといえば眺望です。エスクリの広告は、ほとんどがパース(実際の写真ではなく、イメージ図)。こうすることで、窓が実際よりも広いように見せることができます。実際は見えない東京タワーなどのランドマークが、窓の外にちょっぴり入っていたりもします。

▼ホワイトを基調色に

※結婚式の定番カラー・ホワイト。ブライダル企業各社は、白い結婚式場というイメージから抜け出そうと試行錯誤しました。茶色、ピンク、緑などなど。一発当たれば大爆発する結婚式業界。金脈を探そうと躍起になったものの、どれも当たらず失敗の繰り返し。エスクリはそんなチャレンジングなことはせず、淡々とホワイトベースバンケットやチャペルで攻めました。

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■当初の戦略がブレてM&Aによる拡大戦略を打ち出す

 凄まじい勢いで地方に出店を始めたのが2015年ごろから。4月に福井を中心にゲストハウス運営をする「みや美」を買収。徳島の「清水祥雲閣」、栃木・茨城の「ラ・ポルト」などを次々と事業譲受しています。沖縄にも出店。リゾートウエディングにも参入しました。

 さらに、今年に入って「みんなのウェディング」の結婚式プロデュース事業、「ブライディール」も事業譲受しています。

 主要都市、地方、リゾート、オリジナルウエディングと、幅広い分野に進出したわけですが、結果は業績に出ている通り。

 経営・組織的には、人的リソースが不足し、急激に成長したことで全体の統制がとれなくなりました。岩本氏の脇を固める相当優秀な人材がいない限り、これだけの領域をまとめ上げるのは難しいでしょう。

 最近、フジテレビ系列のウエディング企業「ストーリア」も買収しています。この会社、巨大企業フジ系列ということもあり、ザル経営で業界では結構有名でした。六本木にある結婚式場「パラッツォドゥカーレ」。これはもともと別の企業が運営していました。ストーリアは、とても回収できないような家賃で契約を横取りしたと噂されています(月数百万円の家賃を1千万円超えでオファーしたとか)。

 さて、シェア拡大に乗り出したエスクリ。再び浮上するのか、それとも……。

ベインキャピタルが仕掛けた「大江戸温泉リート投資法人」はやや香ばしい匂いがする

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要点:全国に31の温泉旅館を経営する大江戸温泉ホールディングスが、今年8月に温泉特化型リートを上場させます。仕掛けたのは米投資ファンド大手、ベインキャピタル。リート市場に上場して調達する資金はおよそ200億円です。ベインキャピタルは2015年3月に非上場の大江戸温泉の全株式をおよそ500億円で買収していました。企業価値(業績)を上げて上場させるのかと思いきや、リートを組成するというまさかの変化球。業績を急回復させる目処が立たず、不動産を転がす作戦なのですね。でも、大江戸温泉というウワモノ(運営会社)に、どれほど不動産価値向上力があるのでしょうか、という話。

 

■大江戸温泉はホテルニュー岡部の物件を買収しています

 大江戸温泉ホールディングスは全国に31の温泉つき観光ホテルなどを所有しています。

 「ホテルニュー塩原」も所有するホテルの一つ。この名前を聞いて、ピンとくる方も多いはず。もともとはホテルニュー岡部の持ちもので、バブル当時はテレビCMをバンバン流していました。2010年からは大江戸温泉が3ホテルを引き継いで運営しています。

 ちなみに、大江戸温泉が現在所有・運営しているのが下の画像。うーん、温泉地ということもあり、京都や北海道、沖縄、福岡など国内外の観光客に人気のエリアが欠けています。しかも今は大企業が社員旅行で大々的に温泉地の観光ホテルを使うケースも減ってきました。収益的にどうなのでしょうか。

 観光ホテルの客室稼働率は50%前後(シティ、ビジネスは70~80%)。単価は1万円。良くいえば、潜在能力を秘めた物件です。悪くいえば、箸にも棒にもかからないホテルです。

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ベインキャピタルは大江戸温泉を上場させることに失敗したか

 旅館でリートを組成した星野リゾート(詳細は過去記事で)と、観光ホテルの大江戸温泉。旅館・観光ホテルという収益性の高くない物件を抱えてのリートという点では共通しています。星野が上場した際は素直に”凄い”と思いました。ところが大江戸温泉はどうも、きな臭い感じがしています。2社の違いは何か。それはファンドの傘下に入っているかどうかです。2015年にベインキャピタルは大江戸温泉の全株式を500億円で取得しています。

 ベインキャピタルすかいらーくドミノ・ピザに出資し、立て直しを図ったことで有名。最近では雪国まいたけを買収したことで話題になりました。

 ベインキャピタルLBOレバレッジド・バイアウト)の雄。買収した企業に多額の借り入れをさせ、設備投資・人員削減をして業績を(一時的に)回復させた後、上場させて売却益を得る手法です(その背景を知らないで株を買った一部のお花畑投資家は、企業が背負わされた借金の肩代わりをしているようなものなのですが、それはまた別の話)。

 大江戸温泉も同じ道を歩むのかと思いきや、リートという思いがけない方向へと進みました。これは予想ですが、温泉施設運営としての企業価値がどうやっても上がらず、やむなく不動産運用で価値を上げることにしたのではないでしょうか。

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■ラクに資金調達ができ、物件の取得・売却スピードが上がるリートの魅力

 さて、ここで星野リゾートのビジネスモデルを振り返りましょう。

 星野リゾートという旅館運営会社と、星野リゾートリート投資法人という大家さんの2つの会社が存在しています。星野リゾートリート投資法人は、全国に点在する立地は良くても不採算の旅館を探して安く買います。星野リゾートはその物件にブランド力を付与してお客さんを集め、客室稼働率を2倍、客室単価を3倍に引き上げることに成功しました。物件の資産価値が向上し、大家さんである星野リゾートリート投資法人は万々歳です。

 最近になって旅館の成長性に限界を感じた星野リゾートリート投資法人は、市場から資金を集めて元々採算性の良い全国のビジネスホテルやシティホテルを買うようになりました。運営は星野リゾートが行うのではなく、既存の会社が引継ぎます。こうすることで、ポートフォリオが強固なものとなりました。

 次に大江戸温泉(ベインキャピタル)に置き換えてみましょう。

 大江戸温泉リートが全国の業績が悪化した観光ホテルを見つけたと仮定します。大江戸温泉ブランドを冠することで、客室稼働率と客室単価が劇的に向上しました。なんてことが想像できるでしょうか?だって、ホテルニュー塩原は、かつてと同じ単価1万円ほどで売っていますし。

 今回の案件は、星野モデルとは決定的に異なると考えられます。となると、大江戸温泉をエサに市場から資金を調達し、可能な限り採算性の高い物件を取得することがベインキャピタルの目的と考えるべきです。あるいは、不動産の流動化ビジネススキームの確立を狙ったものかもしれません。いずれにしろ、ベインキャピタルは大江戸温泉の成長性に期待しているとは思えないのです(もし期待しているなら、星野のようなブランド構築を進めるため、リート上場前にメディアへの露出を爆発的に増やしているはず)。

 温泉施設をポートフォリオ全体の80%を占めるという「大江戸温泉リート投資法人」。上場時期は8月31日、初値予想は10万円。将来期待できるシニア層の旺盛な温泉需要と、外国人観光客の温泉ブームにより成長性が期待できるとの触れ込みですが、さて……。

 

[完全版]投資ファンドのすべて―儲けの仕組みと悪用防止策

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そば居酒屋「高田屋」でお馴染みのタスコシステムが倒産

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要点:「北前そば高田屋」や焼き鳥「とり鉄」などを運営していたタスコグループが先月倒産しました。2001年にジャスダックに上場、2003年のピーク時の売上高は182億3700万円にも達していました。「升屋」「月の虎」など数々の業態を立ち上げ、2008年には直営・FC店舗数が100を超えるほどまでに成長。ところが急拡大によるサービスの悪化、客離れ、新業態の失敗と、ありがちな轍を踏む結果に。2008年に上場廃止、そして2016年に倒産。その栄枯盛衰について。

 

■昼は「蕎麦」、夜は「居酒屋」の優れたビジネスモデル

 「北前そば高田屋」は1995年、北海道の北四条に1号店が誕生しました。蕎麦屋の常識を覆す高級感と居住性を持たせ、またたく間に人気店になりました。

 1997年、フランチャイズ加盟店開発を行うベンチャー・リンクと提携。これが急拡大へと弾みをつけることとなりました。

ベンチャー・リンクサンマルクガリバーインターナショナルを世に知らしめた立役者。フランチャイズの元となる店舗を開発し、加盟店を全国から募った。2001年に1部上場するものの、2012年に民事再生法の適用を申請。

 「高田屋」は都市部へ進出したことで更なる強みを発揮します。二毛作ビジネスです。昼は「蕎麦屋」、夜は「居酒屋」として営業。サラリーマンの需要を旺盛に取り込みました。

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■市場調達資金ブースターにより、100店舗以上を展開

 2001年に現ジャスダック市場に上場。

 ベンチャー・リンクと組み、晴れて資金調達もできたタスコシステムは、凄まじい勢いで業態開発と店舗展開を加速します。焼き鳥「とり鉄」、中華レストラン「暖中」、グリルバー「升屋」など、人気店が次々と誕生しました。

 2008年には直営・フランチャイズを合わせて101店舗を運営していました。

※年間230店以上出店する時期もあったようです(商業施設新聞2014年8月19日の記事より)が、インタービューに答えている、当時のアスラポート・ダイニング取締役小林剛氏が話を”盛って”いるような気がしてなりません。←飲食業界の人の話は2/3カットくらいで聞いておくと良いです。

 ピーク時の2003年には売上高182億3700万円を計上。レインズインターナショナルの「牛角」、「鳥でん」などとともに、ベンチャー・リンク成功モデルの一つとして燦然と輝いていました。

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投資ファンドジェイ・ブリッジ」で立て直しを図るも失敗

 急拡大する外食企業はほとんどが失敗します。理由は3つです。

①:スタッフ育成が追いつかない

②:勢いがありすぎて、出店計画が無茶苦茶に

③:業態開発が手薄になる

 ①は顧客離れを生みます。②と③は企業の資金不足につながります。

 特に②はありがち。どう考えても採算が取れないような家賃・立地に出店するケースが増えるのです。③の開発の方に力が使えなくなるのもよくあるパターンですね。適当な業態で新規出店するので失敗するのです。この2つの要素は、企業のマネージメント力が低下することに起因するものです。 

 そんなこんなで業績は悪化、会社の勢いは失速。社長の高田氏は退任し、FC関連の投資ファンドによって立て直しを図ります。

 2005年には新たな投資ファンドジェイ・ブリッジ」の資金を得て再出発しますが、勢いが出ずに資金繰りが悪化。債務超過に陥ります。そして2008年、上場廃止になりました。

 2008年の12月期の連結売上高は54億100万円に減少。純損失は37億9100万円にまで達していました。4期連続の赤字です。

 ちなみに、「高田屋」や「とり鉄」などは別会社がすでに買収していますので、お店が消えることはありません。

高田屋こんな発表をしています。

 勢いがつきすぎて、統制がとれなくなった典型的な企業「タスコシステム」。これほどまでに勢いのあった飲食企業は、今後おそらく出てこないでしょう。

大手町にフォーシーズンズホテル!2020年春オープンです

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要点:大手町にフォーシーズンズホテルが誕生します。開業は2020年春。地上39階建てのビル34~39階部分を、レストラン、宴会場、スパ、プール、フィットネス・ジムを含むホテルとして稼働(写真B棟の矢印あたりがちょうどホテル部分です)。延べ床面積は25,578㎡、客室数は190室。皇居を見渡す絶好のロケーションです。ディベロッパーは三井不動産。大手町といえば、アマン東京がオープンしたことで話題になったエリア。星のリゾートの高級天然温泉旅館開業もあり、ネタが尽きない場所ですね、という話。

 

三井物産の来賓者やゲスト、社員を主要顧客に定めたか

 三井不動産三井物産が共同開発する、都内有数の大規模複合再開発プロジェクト「OH-1計画」。その全貌が明らかになりました。

 ビルは2棟に分かれており、1つはオフィスを中心としたA棟。複合用途ビルB棟のテナントとして「フォーシーズンズホテル」の出店が決定しました。開業は2020年春。

 34~39階がホテル。190の客室、レストラン、バンケット、スパ、フィットネスなどラグジュアリーに相応しい設備を完備。ホテル部分の延床面積は25,578㎡。場所は東京都千代田区大手町一丁目2番地となります。すぐ近くにパレスホテル東京、アマン東京がありますね。

 客室単価はスタンダードで5万円台と予想しています。パレスホテルは4万5000円、アマン東京が10万円。シャングリラが5万円くらい。東京駅の反対側にあるフォーシーズンズホテル丸の内東京は7万円台です。こちらは客室数が57室と少ないので、やや高いですね。

▼開発している場所はこのへん

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 この建物、竣工後に三井物産本社移転が決定しています。会社に関わる来賓ゲストや海外の要人、ビジネスパーソン、社員などがフォーシーズンズホテルの主要顧客になりそうですね。三井物産ほどの企業であれば、MICE(国際会議などのイベント)の取り込みにも期待できます。

 フォーシーズンズは椿山荘からの撤退後、東京にフラッグシップホテルを持てないでいました。

 巨大商社が絡むことで、ホテルの収益がオリンピック、インバウンドといった一過性のものに左右されにくい今回の案件は、喉から手が出るほどほしかったことでしょう。建築には「東京ミッドタウン」をデザインしたSOMを起用。直線と曲線を上手く組み合わせた、モダニズム建築の立役者です。

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■演奏会ができるガラス張りのホールがいい感じ

 オフィスがメインとなるA棟の3階部分には、多目的ホールを設置。商品発表イベントから、国際会議、音楽イベントまで、多用なニーズに応える設備を備える予定です。

 国際交流の中心地であり、芸術文化発信の新たな拠点とする計画。ビジネス街としての印象が強い大手町ですが、竣工後は毛色の違う人々が集まるかもしれません。

▼AB両棟はこんな感じです。※手前が皇居

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■「星のや東京」は7月20日にオープンしています

 星のやリゾートは7月20日に旗艦店となる「星のや東京」を開業しています。地下2階、地上17階の日本旅館風ビル。客室単価は7万円台。

 大手町エリアの再開発とホテルの出店ラッシュが激しさを増しています。ビジネスと観光の中心地東京。オフィスだけでなく、ホテルや商業施設が多くなるのは、利用者にとっては嬉しい限りですね。

 

【OH-1計画概要】

所在地:東京都千代田区大手町一丁目2番

面積:約20,847㎡

延床面積:357,799㎡

竣工:2020年2月

【A棟】

建物:地下5階、地上31階

用途:オフィス、店舗、ホール

【B棟】

建物:地下5階、地上39階

用途:オフィス、ホテル、宴会場

外食経営のトレンドは「金太郎アメ」から「水アメ」型に変わっているのかもしれない

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画像:バルニバービ

要点:外食企業バルニバービ(3418)が、不動産開発の日本エスコン(8892)と提携し、大津駅に簡易宿泊施設をオープンします。施設運営をバルニバービが手掛け、物件への一部投資と経営ノウハウを日本エスコンが提供するというもの。協業して別業態への新たな店舗展開をするといえば、「WIRED CAFE」を運営するカフェ・カンパニーが、「NIKO AND…」のアダストリア(2685)と共同出資し、アパレルとカフェの融合店を運営する新会社を立ち上げると発表していました。外食企業は、店舗開発、チェーン展開、ドミナント戦略フランチャイズといった、金太郎アメ型経営スタイルが主流。それが今は、いろいろな業態と融合する水アメ型になっているのかもしれません。とくに”イケてる”企業においては、という話。

 

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画像:プレジデントオンライン

■それにしても社長がイケてますね

 上の写真はバルニバービ社長の佐藤裕久さん、下はカフェ・カンパニー社長の楠本修二郎さんです。バルニバービはカフェ「GARB」、カフェ・カンパニーは「WIRED CAFE」を運営しています。オシャレな店舗を運営している会社の社長は、いで立ち、顔だちが外食企業離れしている気がしますね。

↓ここからが本題です

■金太郎アメ型経営スタイルのメリット・デメリット

 大庄ワタミコロワイド。業態は若干違いますが、かつて一世を風靡した外食大手企業です。ビジネスモデルは、”稼げる店舗”を開発し、徹底的な経営効率を図る。同じ業態を同エリアに広げて(ドミナント戦略)認知度を上げ、一息に横展開。フランチャイズオーナーを募って全国に拡大する。それが外食企業経営の定番でした。

 同ブランドのお店が、製造業のようなマニュアルに沿って生み出されていったのです。それはまるで金太郎アメの製造現場のようでした。

 2000年くらいまではそれでよかったのです。なぜなら、情報が今より圧倒的に少なかったからですね。冒険して”ヘンな店”に飲みに行くより、そこそこおいしい料理が提供されるお店の安心感を消費者が選んだからです。

 ビジネス的にもチェーン展開はメリットが多いです。

▼徹底的にマニュアル化されていたので、スタッフを育てる手間が省ける

▼業態開発の手間がなく、物件探しに集中できる

▼出店コスト、食材費、販管費など、先読みが容易

▼ちょっと名が知られれば、フランチャイズに加盟したいという建設会社社長なんかが簡単に見つかった

 チェーン、フランチャイズ店から消費者が離れた理由は2つ。

①情報過多であること

②消費者が情報の発信者になったこと

 ①は説明するまでもないですね。②はSNSの発達により、消費者の発信したいニーズが増えたことです。フェイスブックやインスタグラムを使いこなす若者たちにとって和民は力不足。オシャレな雰囲気でエメラルドグリーン色のカクテルを飲む写真を投稿したいのです。

 さらに昨今では、チェーン系のデメリットばかりが目立つようになりました。アルバイトやスタッフが店長を訴えるケースが増えていますね。あれは、店長が店舗へ愛情を持っていない典型的な例。店長の想いや理念が共有できないから、アルバイトの士気が上がらないのです(精神論が通じない時代にはなりましたが……)。

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■外食企業は時代に合わせて形を変える水アメ型に

 バルニバービと日本エスコンの提携ニュースは結構驚きでした。不動産ディベロッパーと外食企業の付き合い方が劇的に変わったと感じたからです。ディベロッパーのイメージはこんな感じです。

ディベ:「やべー、駅前ビルのテナントが埋まんねーよ。どーすっかなー。こんなときは……(電話)」

外食:「あー、〇〇不動産開発さん。この間の案件はお断りしたはずです」

ディベ:「まぁまぁ、そんな固いことばっかり言ってないで。頼むよ、ターワミちゃーん。こんど、ギロッポンでシースーご馳走するからさー。あんたの好きなナヲンも紹介しちゃうから。もっと気の利いたところを固くしちゃおうぜ!ぎゃはははは」

外食:「まぁ、そこまで言うなら」

※イメージです

 ここまでひどくなくても、ディベロッパーがチェーン系外食企業を、テナントを埋めてくれる便利な会社の一つと見ていたことは間違いありません。長期契約をとり、店舗が失敗しようがどうだろうが、賃料さえ落としてくれれば関係ないといった雰囲気がありました。

 今回のニュースはバルニバービと日本エスコンが、不動産と業態を一緒に開発しようという新たなビジネスの形が見えます。バルニバービは不動産の特徴に合わせた店舗展開・業態開発ができますね。「カプセルホテル事業に進出」するのではなく、建物の立地を最大限に活かした結果が簡易宿泊施設を含む飲食ビルだったわけです。

 これは何だか、リンゴ飴を彷彿とさせます。飲食事業が水アメです。金太郎アメのようにアメそのものに価値を持たせるのではなく、素材との融合と価値の最大化を引き出す一要素としてのアメです。

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■WIRED CAFEもアパレルとの協業を選びました

 「WIRED CAFE」を運営するカフェ・カンパニーは、アパレルショップ「NIKO AND…」のアダストリアと共同運営会社を設立すると発表しています。カフェ・カンパニーは稼ぎ頭の「WIRED CAFE」を切り離すという、大きな決断。飲食定番のフランチャイズ展開には動きませんでした。なぜか。飲食がライフスタイルという枠組みでしか、成長できないと感じているからですね。アメを売るよりも、水アメに徹した方が成長性を見込めると判断しているのです。

 飲食企業はチェーン展開にしがみついている企業が多いです。いち早くその枠組みから外れ、水アメ経営に気づいた企業が今後の外食を担うような感じがしますね(そして社長のイケてる感じを出せるかどうかが重要な気がします)。