外食経営のトレンドは「金太郎アメ」から「水アメ」型に変わっているのかもしれない
画像:バルニバービ
要点:外食企業バルニバービ(3418)が、不動産開発の日本エスコン(8892)と提携し、大津駅に簡易宿泊施設をオープンします。施設運営をバルニバービが手掛け、物件への一部投資と経営ノウハウを日本エスコンが提供するというもの。協業して別業態への新たな店舗展開をするといえば、「WIRED CAFE」を運営するカフェ・カンパニーが、「NIKO AND…」のアダストリア(2685)と共同出資し、アパレルとカフェの融合店を運営する新会社を立ち上げると発表していました。外食企業は、店舗開発、チェーン展開、ドミナント戦略、フランチャイズといった、金太郎アメ型経営スタイルが主流。それが今は、いろいろな業態と融合する水アメ型になっているのかもしれません。とくに”イケてる”企業においては、という話。
画像:プレジデントオンライン
■それにしても社長がイケてますね
上の写真はバルニバービ社長の佐藤裕久さん、下はカフェ・カンパニー社長の楠本修二郎さんです。バルニバービはカフェ「GARB」、カフェ・カンパニーは「WIRED CAFE」を運営しています。オシャレな店舗を運営している会社の社長は、いで立ち、顔だちが外食企業離れしている気がしますね。
↓ここからが本題です
■金太郎アメ型経営スタイルのメリット・デメリット
大庄、ワタミ、コロワイド。業態は若干違いますが、かつて一世を風靡した外食大手企業です。ビジネスモデルは、”稼げる店舗”を開発し、徹底的な経営効率を図る。同じ業態を同エリアに広げて(ドミナント戦略)認知度を上げ、一息に横展開。フランチャイズオーナーを募って全国に拡大する。それが外食企業経営の定番でした。
同ブランドのお店が、製造業のようなマニュアルに沿って生み出されていったのです。それはまるで金太郎アメの製造現場のようでした。
2000年くらいまではそれでよかったのです。なぜなら、情報が今より圧倒的に少なかったからですね。冒険して”ヘンな店”に飲みに行くより、そこそこおいしい料理が提供されるお店の安心感を消費者が選んだからです。
ビジネス的にもチェーン展開はメリットが多いです。
▼徹底的にマニュアル化されていたので、スタッフを育てる手間が省ける
▼業態開発の手間がなく、物件探しに集中できる
▼出店コスト、食材費、販管費など、先読みが容易
▼ちょっと名が知られれば、フランチャイズに加盟したいという建設会社社長なんかが簡単に見つかった
チェーン、フランチャイズ店から消費者が離れた理由は2つ。
①情報過多であること
②消費者が情報の発信者になったこと
①は説明するまでもないですね。②はSNSの発達により、消費者の発信したいニーズが増えたことです。フェイスブックやインスタグラムを使いこなす若者たちにとって和民は力不足。オシャレな雰囲気でエメラルドグリーン色のカクテルを飲む写真を投稿したいのです。
さらに昨今では、チェーン系のデメリットばかりが目立つようになりました。アルバイトやスタッフが店長を訴えるケースが増えていますね。あれは、店長が店舗へ愛情を持っていない典型的な例。店長の想いや理念が共有できないから、アルバイトの士気が上がらないのです(精神論が通じない時代にはなりましたが……)。
■外食企業は時代に合わせて形を変える水アメ型に
バルニバービと日本エスコンの提携ニュースは結構驚きでした。不動産ディベロッパーと外食企業の付き合い方が劇的に変わったと感じたからです。ディベロッパーのイメージはこんな感じです。
ディベ:「やべー、駅前ビルのテナントが埋まんねーよ。どーすっかなー。こんなときは……(電話)」
外食:「あー、〇〇不動産開発さん。この間の案件はお断りしたはずです」
ディベ:「まぁまぁ、そんな固いことばっかり言ってないで。頼むよ、ターワミちゃーん。こんど、ギロッポンでシースーご馳走するからさー。あんたの好きなナヲンも紹介しちゃうから。もっと気の利いたところを固くしちゃおうぜ!ぎゃはははは」
外食:「まぁ、そこまで言うなら」
※イメージです
ここまでひどくなくても、ディベロッパーがチェーン系外食企業を、テナントを埋めてくれる便利な会社の一つと見ていたことは間違いありません。長期契約をとり、店舗が失敗しようがどうだろうが、賃料さえ落としてくれれば関係ないといった雰囲気がありました。
今回のニュースはバルニバービと日本エスコンが、不動産と業態を一緒に開発しようという新たなビジネスの形が見えます。バルニバービは不動産の特徴に合わせた店舗展開・業態開発ができますね。「カプセルホテル事業に進出」するのではなく、建物の立地を最大限に活かした結果が簡易宿泊施設を含む飲食ビルだったわけです。
これは何だか、リンゴ飴を彷彿とさせます。飲食事業が水アメです。金太郎アメのようにアメそのものに価値を持たせるのではなく、素材との融合と価値の最大化を引き出す一要素としてのアメです。
■WIRED CAFEもアパレルとの協業を選びました
「WIRED CAFE」を運営するカフェ・カンパニーは、アパレルショップ「NIKO AND…」のアダストリアと共同運営会社を設立すると発表しています。カフェ・カンパニーは稼ぎ頭の「WIRED CAFE」を切り離すという、大きな決断。飲食定番のフランチャイズ展開には動きませんでした。なぜか。飲食がライフスタイルという枠組みでしか、成長できないと感じているからですね。アメを売るよりも、水アメに徹した方が成長性を見込めると判断しているのです。
飲食企業はチェーン展開にしがみついている企業が多いです。いち早くその枠組みから外れ、水アメ経営に気づいた企業が今後の外食を担うような感じがしますね(そして社長のイケてる感じを出せるかどうかが重要な気がします)。
いちごホテルリート投資法人が手堅いビジネスホテル10物件を新規取得
要点:昨年11月30日にJリート市場に上場した、いちごホテルリート投資法人(3463)がビジネスホテル10物件を新規取得しました。取得額はおよそ272億円。上場時の資産規模9物件204億円から19物件476億円に急拡大します。取得した物件は「ネストホテル大阪心斎橋」や「コンフォートホテル中部国際空港」など、すべてビジネスホテル。手堅い投資で拡大する戦略ですね、という話。
■物件取得のニュースは絶妙なタイミングです
いちごホテルリート投資法人は昨年11月30日に上場しました。訪日外国人が過去最高の1973万人、国内の海外旅行者を上回ったと騒がれる絶好の頃合いで上場。株価初値は予想価格10万円を若干上回る10万9200円だったものの、1月には14万3900円、5月末には19万9800円の高値をつけるなど、順調な成長っぷりを見せていました。
最近は過熱感が一服し、ブレグジットによる市況の悪化で株価は15万円近辺で横ばい。そろそろ買い入れどきかと思ったそのとき、10物件新規取得のニュースが入りました。
■10ホテルのNOI比率は5.5%です
いちごホテルリート投資法人の上場時ポートフォリオはビジネスホテル9物件、資産規模は204億円でした。所有資産はJリート全54銘柄のうち、下から2番目(最下位は高齢者住宅に投資する日本ヘルスケア投資法人)。NOI利回りも3.71%と高い数字とはいえませんでした。
※NOI利回り:営業純利益を投資額で割ったもの。空室率や運営コストを加味した数字なので、満室想定で計算する表面利回りよりも現実に近い。
ちなみに、ジャパン・ホテル・リート投資法人のNOI利回りは7.08%、星野リゾート・リート投資法人は7.02%です。資産規模が小さく、NOI利回りが悪い、いちごホテルリート投資法人は投資妙味にやや欠けるところがありました。
今回取得した物件は、なかなか良さそうですね。こんな感じです。
▼ネストホテル大阪心斎橋 価格:76億6000万円 NOI利回り:5.3%
▼コンフォートホテル中部国際空港 価格:57億7000万円 NOI利回り:5%
▼スマイルホテル東京阿佐ヶ谷 価格:39億4000万円 NOI利回り:5%
▼ネストホテル那覇 価格:37億7000万円 NOI利回り:6.2%
▼スマイルホテル浅草 価格20億2000万円 NOI利回り:5%
※10軒のうちの5軒です
新規取得した10ホテルの平均NOI利回りは5.5%、取得金額は272億円です。いちごホテルリート投資法人全体の資産規模は476億円、NOI利回りは4.6%になる計算です。
ホテルの立地もそこそこのところが多いので、評価額が急激に下がるとも思えません(大地震でも起こらない限り)。
■インバウンド減退と円高の逆境を乗り越えられるかがカギ
いちごホテルリート投資法人は、今回の物件取得の資金を調達するため、12万1600口の新投資口を発行します。投資口数は88%増えることになりますが、資産規模を考えれば妥当な増資。
多くのホルダーは、6月のブレグジットで株を手放していると考えられます(株価は6月20日の19万5600円から7月11日の14万5600円まで続落)。とすると、今回の物件取得ニュースは、増資を加味しても株価を押し上げる好材料となりそう。
心配なのは、急激な円高で外国人観光客が減少してしまうのではないかということ。ホテル系銘柄はインバウンド関連が支えています。まっとうな投資家にとっては”クソ”でしかない円高を乗り越えられるのかどうか。いちごの戦いは始まったばかりです。
ダイヤモンドダイニングがゼットンを買収!売り上げ規模は300億→400億へ
写真:ダイヤモンドダイニング
要点:外食上場企業大手のダイヤモンドダイニングが、「アロハテーブル」などで有名なセントレックス上場ゼットン(3067)の株式を公開買い付けします。買い付けの下限を40%と設定しており、完全子会社化への布石となります。ゼットンの売上高はおよそ100億。子会社化すればダイヤモンドダイニングの売り上げ規模は400億円台となり、チムニー(およそ470億円)に迫る勢いとなります。
※ダイヤモンドダイニング代表の松村厚久さん(右から2番目)と、ゼットン創業者の稲本健一さん(右3番目)は、写真の通り蜜月の関係。今回の買収劇は両社の利害が一致した、前向きなものとなります。
■目標「100店 100業態」達成の次は、「1000店 売上1000億円」
同業態を横展開し、フランチャイズ化するのが外食の基本(典型的な例がワタミ)。そんな居酒屋業界に殴り込みをかけたのがダイヤモンドダイニングでした。
2001年にヴァンパイアカフェをオープンし、2002年にダイヤモンドダイニングを設立。2010年までに「100店 100業態」という無茶苦茶な目標をたて、恐ろしいことに達成してしまいました。設立当初は白けた目で見ていた業界関係者が、白目をむいたというわけです。
次なる目標として設定したのが「1000店 売上1000億円」というもの。このときの売り上げ規模はおよそ250億円。1000億円クラスといえば、ワタミの1200億円に迫るという、これまたとんでもない目標でした。当然、新規出店するだけでは届かないわけで、M&Aに動くのです。
2011年にビリヤードやダーツでお馴染みのバグースを買収。昨年は一家ダイニングプロジェクトへ出資を決定しています。そして今回、ゼットンの公開買い付けを行いました。
■ゼットンの営業利益は直近で9300万円の赤字と斜陽化していました
ゼットンの28年2月期の業績はこんな感じです。
▼売上高 101億4100万円(昨対5.5%増)
▼営業利益 9300万円赤字
▼経常利益 2400万円(91.9%減)
ちなみに29年2月期の業績予想はこんな感じ。
▼売上高 102億(0.6%増)
▼営業利益 2億3000万円
▼経常利益 3億円(65.4%増)
ゼットンの売上は3つの柱で構成されています。
①:ビアガーデン
②:アロハテーブル(ダイニングカフェ)
③:ブライダル
① ビアガーデンは天候に左右されやすく、特に昨年は影響をもろに受けたようです。不採算店を閉店し、特別損失を計上していました。
② 主力のアロハテーブルは出店速度に人材育成が追いつかず、既存店の人員不足を招いています(社員をフル回転で毎日出勤させる、ブラック企業の烙印を押される手前まで行ったかどうかはわかりません)。主力事業がガタついたことは間違いなさそうです。
③ ブライダルは稼ぎ頭の名古屋のガーデンレストラン「徳川園」が競合に押されて停滞気味。名古屋エリアは業界でも激戦区として有名で、最近ではツカダ・グローバルホールディングスが駅前にとんでもない巨大施設をオープンしていました。徳川園は一時テレビでも取り上げられて話題となりましたが、駅から遠いなどの要因により、人気が衰えているのでしょう。
■両社にとってのメリットはどんなところが考えられるか
▼ダイヤモンドダイニングのメリット
・店舗数、売り上げの拡大
ダイヤモンドダイニングの28年2月期の売上高は298億2000万円です。
・ブライダル事業のノウハウ吸収
個人的にはコレが一番大きいと見ています。ダイヤモンドダイニングはイノベーションデザインというブライダル・コンサル企業と提携し、ウエディング事業へと本格的に乗り出しました。が、現在はハワイウエディングのみに留まり、大きな飛躍はできていません。
ゼットンは、名古屋の徳川園・テレビ塔や、横浜の山手十番館・マリンタワーなど、歴史的建造物やランドマークを結婚式場として活用し、成功した企業。遊休化した施設の再生・活用の手法に長けています。
松村社長は築100年以上の歴史的建造物をブライダル施設として再生、今秋にオープンすると公言しています。ゼットンのノウハウは会社を成長させる上で必要不可欠なものでした。
・ビアガーデン事業の新規開拓
遊休スペースを夏季限定でビアガーデン化しているゼットン。その事業を協業して拡大すると考えられます。
▼ゼットンのメリット
・人員不足解消
・成長路線から安定路線へ
ゼットンは昨年、稲本さんが社長から会長へと変わり、会社が潮目を迎えていました。会社をガンガン成長させるという気概が薄まり、今後は安定的に動かすということでしょう。完全子会社化されれば、人員不足も解消されますね。
ダイヤモンドダイニングは今後の成長が期待される優良企業です。多角的な展開に注目が集まっています。
KG情報(2408)はウエディング事業で本気のテコ入れを図るべき3つの理由
要点:KG情報(2408)の16年12月期第2四半期の連結経常利益が前期比8.7%減、0.4%増益予想から一転して減益となりました。更に通期の利益を従来予想の7億円から4.9億円に約30%下方修正。株価は7月7日の555円から、8日の489円まで急落。この会社、微妙に力を入れているウエディング事業が足を引っ張っているような気がしてなりません。やるならやれよ、ダメならやめろ、という話です。
■渋谷の超一等地に突如出店するという暴挙
KG情報は四国が地盤の会社です。求人、不動産・結婚式場紹介などを行っています。さながら四国・九州のリクルートといったところ。情報誌(雑誌)を主力として事業展開してきましたが、最近はWebに押されて業績は悪化気味。
こんな感じです。
▼26年12月期 ※( )は前期比
営業収益 44億2600万円(△5.6%)
営業利益 5億3700万円(△29.3%)
経常利益 5億4300万円(△33.8%)
▼27年12月期
営業収益 41億9900万円(△5.1%)
営業利益 4億5000万円(△16.1%)
経常利益 4億6400万円(△14.5%)
ヤバいですね。年々売上、利益が減少しています。そんな中、ブライダル事業で一発逆転を狙ったのです。1000%ウエディングと銘打ち、渋谷駅ハチ公前の超一等地に意気揚々とやってきました。それは業界を変える黒船かと思われました(が、どちらかというとモリ一つで空中要塞ギガントに挑む未来少年コナンを彷彿とさせるものでした)。
間違えました。こっちです。
■やりたいこともやれないこんな世の中じゃ、POISON
1000%ウエディングは上手くいっていません。なぜか。理由は3つです。
①:営業の力不足
②:スタッフ(ウエディングプランナー)がやりたいことをできない
③:賃料が高すぎる
まずは①から。1000%ウエディングは結婚式場の紹介カウンターとなっています。ここにやってきたカップルに結婚式場を紹介し、会場から手数料を得るというビジネスモデル。このモデルで重要なのは、いかに多くの結婚式場と提携できるか。紹介してもらえる会場が多ければ多いほど、人が集まりやすいからです。ゼクシィが良い例ですね、ほぼ全ての結婚式場を抑えている安心感が、カップルを惹きつけています。
1000%ウエディングのホームページを見ると、会場が圧倒的に不足しています。特にテイクアンドギブ・ニーズ、ノバレーゼ、エスクリ、アニヴェルセルといった、上場系大手の施設が一切ありません。営業力が弱く、切り込めないのでしょう。これでは人は集まりません。
1000%ウエディングは、結婚式場紹介とは別に、自社のウエディングプランナーが結婚式をプロデュースするという形をとることもできます。ところが、ウエディングプランナーはやりたいことができません。
なぜできないか。なぜなら、結婚式場紹介がメインのビジネスモデルとなっている以上、自社が結婚式をプロデュースすると提携先に対して顔が立たないからです。自社案件が増えれば増えるほど、営業サイドは迷惑なわけですね。
どんなに良い結婚式のプロデュースができたとしても、社内でイヤな顔をされる。しかも大々的に宣伝ができない。スタッフのモチベーションはだだ下がりです。
そんなわけで、やりたいこともできないというわけです。それが②。
ちなみに上の写真は、ウエディングドレスを着たまま海に入ってしまおうという企画。これは結婚式の話ではなく、ウエディングフォトの話です。やはり企画はこの辺りまでが限界なのでしょう。
※婚礼プロデュースで成功したクレイジーウエディングと比較すると一目瞭然。
■家賃は推定月360万円
③番目。KG情報が出店したのは、渋谷駅ハチ公前。ロクシタンがテナントとして入る、超一等地です。しかも、3階と4階の2フロアを借りきりました。
推測ですが、この辺りだと1坪3万円ほどでしょう。1フロア60坪ほどの広さ。2フロアで賃料は月360万円。年間4300万円ほどに膨れ上がります。これほどまでに賃料に投資する必要が本当にあるのでしょうか?
会社の思惑としては、通りすがりの顧客を取り込めると考えたのでしょう。しかしながら、ふらっと立ち寄るカップルがどれほどいるのか疑問です。
結婚式場選びをする場合、カップルは3~400万円ほどの出費を覚悟します。事前に相当調べるケースがほとんどのはず。家賃でこんなに出費をするよりも、Web広告にお金をかけた方が、よっぽど集客に結びつきそうです。
事実、ゼクシィ相談カウンターは、百貨店やショッピングモールなどの一角を借り、細かく、全国に広げています。
以上の理由から、現在の戦略ではウエディング事業は上手く行きません。本気でやるなら営業部隊を揃えるか、プロデュース事業を強化するか、渋谷から撤退するか。とにかくテコ入れか、規模縮小かを本気で考えた方がよさそうです。
狂気の沙汰か、イスラム圏進出への布石か?海帆(3133)のムスリム完全対応「ゆずの雫 姫路駅前店」
要点:海帆(3133)は7月1日にムスリムに完全対応した居酒屋「ゆずの雫」をオープンしました。場所はなぜか姫路駅前。イスラム教徒が多いわけでも、ムスリム観光客が多く集まるエリアでもありません。今回オープンした店舗は、イスラム教徒向けの礼拝所まで店内に設ける徹底ぶり。「んなことやってる場合かよ!」と思うか「世界の潮流を見極めている」と見るかは、投資家次第、という話。
■28年3月期の営業利益を昨対で40.7%落とした海帆
「なつかし処昭和食堂」でおなじみの海帆ですが、前期は出店準備の遅れなどが影響して、業績は振るわない結果となりました。営業利益は1億3300万円(前期比43.7%減)。今期は微増の1億6900万円を掲げています。
昨年4月に上場し、2015年7月に株価は2288円の高値をつけましたが、業績悪化で現在は800円台。外食系上場ゴール企業としての地位を固めてしまった会社の一つです。
そんなわけで株主は「激おこ」なわけですが、なんと火に油を注ぐように、6月15日には新株予約権の発行を決定しました。既存株主の皆さんは怒髪天を衝いた(激おこぷんぷん丸だった)ことでしょう。
そんな中、7月7日に発表した内容がなんともキナ臭いものでした。
■礼拝所とお清めスペース完備の飲食店
ムスリムに完全対応した「ゆずの雫 姫路駅前店」をオープンするというものです。以下、詳細です。
▼ハラール認証食材に完全対応
ノンアルコール、ノンポーク、調味料に至るまでハラールに準拠した地元食材を使用。おすすめは「あなご天丼」です。
▼礼拝スペースとウドゥ(お清め)スペースを確保
姫路には礼拝スペースがありません。安心して立ち寄れる場所を設けることで、観光客だけでなく、留学生などの在日ムスリムも呼び込みます。
▼価格帯の目安
ランチ:1000円~1500円
ディナー:2000円~2500円
この発表を見たときは正直、「どんだけ頭の中がお花畑なんだよ、もっとやることあるだろ。市場から資金を調達してコレかよ?」と思ってしまいました。ムスリムの観光客が増えたとはいえ、当面メインストリームにはならないでしょうから。
しかしながら、今回の出店に協力したという一般社団法人メイドインジャパン・ハラール支援協議会のページを見て気づいたことがあります。「ゆずの雫 姫路駅前」は2つの意味があるのではないか。
①:インバウンド、在日ムスリムの取り込み
②:ムスリム圏への出店準備
(③:やや怪しい団体に乗せられた)
本質的な狙いは②なのではないかと。
■世界人口の4人に1人はムスリムです
ムスリムは世界人口69億人のおよそ23%、1/4ほどを占めている巨大な商圏と考えられます。しかも人口は増え続けているので、マーケットは拡大中。様々な企業が中国・東南アジアからムスリム圏へと食指を伸ばしているのは事実。
海帆が本当に②を狙っているのであれば、今後の展開は面白いですね。ただ、目先の株価をどうするのかが気になりますが(個人的には今回の発表に②を盛り込んでもよかった気がします)。
横浜の「ホテル、ニューグランド」が東電からカネをせびっていた件
要点:横浜のランドマークとして、昭和2年に開業した老舗ホテル「ホテル、ニューグランド」。ロマン溢れる建物が観光客に人気です。そんな表向きの顔とは裏腹に、隠れて東京電力からおカネをせびっていました。理由は「福島第一原発事故による、風評被害」。和解金は4900万円。お、おう。福島県からだいぶ離れたこんな場所でも損害賠償請求ができるんですね、という話。
■特別利益4900万円計上は何だか複雑な思いを抱かせる発表です
当社は、平成 28 年 11 月期第 2 四半期累計期間において、下記のとおり特別利益を計上するこ とになりましたので、お知らせいたします。
特別利益発生の内容と理由
当社は、東京電力ホールディングス株式会社の福島第一原子力発電所における事故に伴い、 観光風評被害における損害賠償を請求しておりましたが、この度、賠償額の和解案が合意い たしました。 これにより、平成 28 年 11 月期第 2 四半期累計期間において、特別利益として和解額 49 百万円を計上いたします。
■ホテルによる風評被害の賠償請求は福島県の1件しか見当たらず
第一原発事故によるホテルの観光風評被害訴訟はそれなりの数があるのかと思っていました。ところが調べてみると、福島県西白河郡にある「泉﨑カントリービレッジ」を経営する泉崎コーポレーションの事例しか見当たりません。そこそこの規模がある会社であれば、それなりの発表か報道があるはず。ホテルが損害賠償請求をしたケースは少なかったものと考えられます。
ちなみに、泉崎カントリービレッジは今年1月に1100万円の支払いで和解しました。福島でモロに被害を受けたホテルが1100万円、横浜のニューグランドが4900万円です。
あのとき、観光客が激減して商売が立ち行かなくなったことは誰もが承知しています。それでも、ニューグランドが何だかとっても、↓こんな感じがするのは気のせいでしょうか。
■上期経常は赤字縮小、第2Qは黒字で着地
ホテル、ニューグランドの16年11月期第2四半期累計の経常損益は600万円の赤字(前年同期は8200万円の赤字)と赤字幅は縮小。直近3か月の経常損益は、4300万円の黒字(前年同期は900万円の赤字)に浮上しています。
和解金は第2四半期の決算に計上されていますが、もちろんそれだけが利益を押し上げているわけではありません。観光客が戻って、今では宿泊が好調なのです。
ちなみに宿泊部門は前年比(2Q)2.4%増の6億4900万円でした。宴会も好調ですね、前年比14.1%増の10億9700万円です。
ホテル、ニューグランドは三渓園の土地や有価証券を売却して、資産の整理を進めていました。今回の和解も成立したことで、今後はホテル経営に集中することを願っています。6月から9月にかけて、レストランや宴会場をリニューアルしています。集客に弾みがつきそうです。
金沢に誕生する外資系ホテルは「ハイアット・セントリック」に決まったようです
要点:金沢市に誕生する初の外資系ホテルが都市型ハイブランド「ハイアット・セントリック」に決定しました。ディベロッパーはオリックス、土地取得金額は22億円。敷地内はホテル棟とレジデンス棟の2つに分かれており、ホテルは250室、レジデンスは109室となるようです。庭園内には独立型チャペルを設け、ウエディングにも力を入れる様子。金沢市の観光・ビジネス・文化の拠点に相応しい場所となりそうですね、という話。
※過去記事はこちら
■国際都市へと変貌を遂げる金沢市
ほんの数年前は「ああ、兼六園か」くらいの認知度しかなかった金沢市。ところが、北陸新幹線の開通と世界的な知名度を得た駅舎で観光客の心を鷲掴みにし、GWには以前の3倍もの人が訪れるようになりました。今ではすっかり日本有数の観光都市です。
そんな金沢市に新たなニュースが。以前から「来るよ、来るよ」と言っていたインターナショナルブランドホテルが本決まりしました。しかもスタイリッシュな「ハイアット・セントリック」です。
客室数250、スタンダードで35㎡。建物の高さは60mです。宿泊料金は1万5000円~くらいと予想されます。
▲全体図はこんな感じです
ホテル棟とは別にレジデンス棟を設けています。こちらは米オークウッドのサービス付きアパートメント。六本木のミッドタウン、青山、麻布十番などの高級街に物件を所有しています。東京以外への進出は初となるようです。
レジデンス棟は109室、スタンダードで149㎡となっています。短期滞在のホテル、長期滞在のサービス付きアパートと、観光・ビジネスの需要を十分に吸収できますね。
ガーデンには独立型チャペルがしっかり設けてあります。金沢市は大手ブライダル企業がこぞって出店したエリア。ウエディングの盛り上がりにも期待できそうです。
■「ハイアット・セントリック」は2018年銀座に日本第1号店が誕生します
セントリックブランドは2015年に誕生しました。主要なターゲットを「旅行者」と定め、シカゴとマイアミに展開しています。
このブランド、やはりオリックスが誘致する形で2018年に銀座の一等地に出店が決定しています。朝日新聞が所有する12階建てのビルで、客室数は164。日本に都市型の新たなブランドホテルが誕生するとして、結構な話題になっていました。そんな中、金沢市の日本海側初のインターナショナルブランドホテルが、「ハイアット・セントリック」に決まったというわけです。
金沢市の賑わい創出に相応しい場所となりそうですね。